大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和38年(ツ)32号 判決 1965年2月19日

昭和三八年(ツ)第三一号上告人

増田益雄

外四名

昭和三八年(ツ)第三二号上告人

金沢悦子

外五名

以上一一名代理人

土家健太郎

右両事件被上告人

佐々木勝憲

外六名

以上七名代理人

熊谷正治

主文

原判決を破棄する。

本件を函館地方裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人土家健太郎の上告理由第二点について。

土地所有者甲が地上建物の所有者乙に対し、いわゆる処分禁止の仮処分命令を得、これを執行して登記簿への記載を経て後、乙が第三者丙に対し、建物所有権を譲渡しても、右譲渡は甲に対抗しえない道理であるから、甲は地上建物収去土地明渡の訴訟を提起するに際し、乙を相手取ることができ、またこれを相手取れば足りうるのであつて、丙を相手取るには及ばない。けだし、甲は丙を建物所有者として認める必要がないからである。然るに、今、もし甲が丙を相手取つて地上建物収去土地明渡の訴訟を提起したとすると、その提起自体はもとより違法ではないが、甲は、元来認める必要のない丙の建物所有権を、建物収去を丙に対して求めることにより、自ら進んで認めてかかつたのであるから、その限りにおいて、乙丙間の建物譲渡の無効を仮処分の効力として丙に対し主張することを得ないものと解すべきである。

そこで、右の丙につき借地法第一〇条の建物買取請求権が発生し、丙がこれを甲からの訴訟において被告として、あるいはその訴訟において敗訴し判決が確定して後執行債務者として、これを行使した場合を考えるに、本来なら甲は乙丙間の譲渡の効力を否認しうる結果、丙の建物所有権取得、従つてその買取請求権の行使は、甲に対してその効果を生じないものとすべきであるが、右の場合には、前段判示の理路により、甲は、乙丙間の建物所有権譲渡に伴い丙に買取請求権が発生することを、仮処分を援用することによつて否認しえないものといわなければならない。従つて、かかる場合においては、丙は、仮処分にもかかわらず有効に買取請求権の行使をなしうることとなる。

そして確定事実によれば、本件において上告人らがその買取請求権の行使をなしうることとなる。そして、確定事実によれば、本件において上告人らがその買取請求権の行使を援用している訴外甲谷辰五郎は、訴外馬場トクに対する処分禁止仮処分の執行後、訴外道南住宅株式会社を経て、その建物所有権を承継したものであり、同人に対する地主からの収去明渡訴訟後、買取請求権を行使したのであるから、正しく右の設例における丙に相当する。従つて訴外甲谷による買取請求権行使の効果を被上告人との関係において否定した原判決は失当であつて、この点を指摘する論旨は理由があるとせねばならない。

よつて、その余の論旨を判断するまでもなく、原判決は破棄すべきものであり、民事訴訟法第四〇七条第一項に従つて原審に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。(伊藤淳吉 臼居直道 倉田卓次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例